本当のピアノ調律について |
本当の出荷調整・ピアノ調律について楽器も一種の工業製品であり、耐久性・操作性など楽器を本格的に演奏する方にとって、 一番良いコンディションであるのは、製品がメーカーの責任ある検品を経た直後の状態であると言えます。 この事に関しましては、楽器の流通や特性を十分に把握出来ていない一般ユーザーの無知に付け込んで、 時間が経てばどんどん良くなると無根拠なセールストークを使う販売店・調律師の方が多く、 これを真に受けている方もかなりいらっしゃるようです。 もちろん、ハンマーが打弦によってやわらかくなっていくにつれてまろやかな音色になる傾向があるので、 新品時の張りのあるきつめの音色を好まれない方ですと、ご使用から数年後の状態がおすすめかも知れません。 しかしながら、どんなピアノでも経年変化で張りのある音・ボリューム感のある音は失われていきますし、 ピアノの打鍵をハンマーによる打弦に変えるメカニック部分であるアクション関係にも摩耗が生じますので、 ピアノも他の工場製品同様、経年変化によって徐々に性能は低下していく事は十分認識しておく必要があります。 ただし、メーカー・輸入元が本当に責任ある検品・出荷調整をしているかと言えば、はなはだ疑問があり、 特にピアノの場合、運搬や設置環境の変化によって音・タッチのばらつきなどが出るのですが、 この事を言い訳にして十分な出荷調整を行わない(出来ない)メーカー・輸入元が多くなっているのは、 非常に問題のある状況であると言わざるを得ないと思います。 さらに、製造段階での根本的な問題がある商品をそのまま市場に流しているのに、 強くクレームとして主張した事例のみ隠れて無償対応するという、 いわゆるリコール隠しに近い対応も残念ながら多くみられています。 例えば、ヤマハのグランドピアノのファインアイボリー鍵盤の初期型には、 黒鍵が色落ちして白鍵がすぐに黒ずんでしまうという致命的欠陥があったにもかかわらず、 問題のあった機種に対して全面的に対処した形跡は全くありません。 特にヤマハの場合、出荷段階でアフターサポートを充実させるという名目で、 納入先の住所・電話番号・名前を各販売店に提出させているのですが、 前述の様な大きなクレームがあった場合にも最適な対処はしていません。 つまり、前述のヤマハによる顧客情報の管理は、 実質流通経路・売掛金の支払い状況の監視のためにしか役立っていない訳です。 以上の様なアフターサポート・出荷調整の不備はヤマハだけでなく、 他のメーカー・輸入元でも存在しますので、楽器に十分な知識をお持ちでない個人ユーザーの方が、 お客様との関係よりもメーカーとの関係を優先する販売店から製品を購入された場合、 運悪くそのようなトラブルに巻き込まれる事がある訳です。 この様なトラブルは楽器の当たり外れと表現され、あたかも偶然起こった事の様に処理されますが、 実際は、楽器ではなくメーカー・販売店の当たり外れで、かなり必然性の高いものなのです。 従いまして、メーカー・輸入元の検品・出荷調整の不備の補完という面と、 運搬・設置環境の変化に伴うコンディションの調整という面の2つから、 楽器の場合、メンテナンス(調律・調整)の重要性が高くなるのですが、 前述のアイボリー鍵盤の様な場合には、最終的には鍵盤交換以外の選択肢はないので、 ピアノ調律・調整という部品交換ではない一般の方に分かりずらい部分をメインに説明しようと思います。 ここで、まず考えておく必要があるのはピアノはどう言った特性・機能を持った楽器かという事です。 ピアノは鍵盤をたたいた動きがハンマーフェルトによる打弦という動きに変化して、 音を出すという仕組みになっている事はご存じの方も多いと思います。 しかし、演奏者が演奏中に制御出来る部分はどこかという点については、 あまり皆さん良く分かっていないのではないかと思います。 この点、話の内容を単純にするため、ペタル操作を除外した打鍵のみに注目した場合、 演奏者が制御出来る部分は、実はたった3つしかありません。 すなわち、どの鍵盤を打鍵するか、打鍵を行っている長さ、そしてハンマーフェルトが弦に当たる速さです。 これについては、ピアニストの方から異論も出るのではないかと思いますが、 演奏テクニックという側面ではなく物理的な側面から考察した場合、前述の3つに集約されます。 従いまして、演奏者が制御出来るのは前述のたった3つの要素だという事を踏まえて、 より表現の幅が出せるように調律・調整するのがピアノのメンテナンスという訳です。 まず、どの鍵盤を打鍵するかという部分しか制御出来ないという点からの当然の帰結として、 音の高さ(ピッチ)は、演奏者が制御出来ない部分になります。 従いまして、和音がきれいな響きをするかどうかは完全にメンテナンスの技量にかかって来ます。 この点、特に中・高音域で和音やオクターブが詰まって聞こえる調律では表現の幅が出せないので、 この様な調律では本当の調律とは言えないという訳です。 次に、打鍵を行っている長さしか制御出来ないという点からの当然の帰結として、 打弦の瞬間の一番音が強い部分に対して演奏者の神経が最も注がれるという事になります。 つまり、弱打にしても強打にしても音の立ち上がりに十分配慮した調整・調律をしなければ、 演奏者が行おうとしているテクニックがピアノに十分伝わらないという事です。 しかしながら、一般的な調整・調律の作業では音の立ち上がりに対して注意を払われていない場合が多く、 弱打でしかも音が消える瞬間だけに注意が払われているというケースも少なくないです。 よく、弱打(ピアニッシモ)と言いますと単に音が弱いだけだと勘違いしている方も多いのですが、 実際は、強打よりも弱打の方が緊張感というか張りつめた感じというものがあるので、 これをうまく表現するには、音の立ち上がりのジャストな感覚が必須になります。 このジャストな感覚というのは、単に出音の面でなくタッチとのマッチングという面でも必要で、 前述の2つの部分がしっかりと調整されているピアノに一般の方からご不満が出る事はまずありません。 当店でピアノをご覧になったほとんどのお客様が他の所で見た同型品番のピアノよりも、 弾きやすくしかも良く響くピアノだとびっくりされるというのも、 メーカーや輸入元の出荷調整が基本的に不十分である事に加え、 展示を行っている多くの販売店があまり精度の高くない調律だけして放置しているケースが通常なので、 そのピアノが本来持っている基本性能を十分に発揮させたものをご覧になっていない方が多いからです。 (輸入元やメーカーショールームでも弾きやすくしかも良く響くピアノに出会う事はかなり稀です。) 最後のハンマーフェルトが弦に当たる速さの制御という点についてですが、 これがピアノテクニックのほとんど全てと言っても良い部分です。 この制御を確実に行うために指・手首・ひじ・腕の使い方をピアノレッスンでは練習するのですが、 ピアノの先生の中にも、ハンマーフェルトが弦に当たる速さの制御をしているという意識がない方は、 鍵盤の位置と指番号があっており、指をたまご型にして上から打鍵していれば、 出音についてはほとんど無頓着というケースも結構多いのが実情です。 しかし、これらのピアノテクニックは全てハンマーフェルトが弦に当たる速さの制御、 つまり音の響き・音色の制御のために行うものなので、この点に十分な配慮がなされていないのが、 日本と海外のピアノ教育のレベルの差と言っても過言ではないと思います。 この点、ハンマーフェルトが弦に当たる速さの制御を演奏者が行っているのに、 それに見合った音の響き・音色の変化がなければ十分な表現が出来ない事になるので、 この部分に対する配慮も本当のピアノ調律・調整には必要になります。 ただ、この部分に関しましては、 ピアノの基本性能にも大きく影響されてしまう部分なので、 例えば、ヤマハ・カワイのピアノを有名輸入ブランドのピアノに匹敵する音に仕上げる事が出来ると、 うそぶいている技術者の方も結構多いらしいのですが、 実際は調律・調整で全てが解決するものではないとご理解下さい。 つまり、音の響き・音色に関する基本特性というものは設計・製造段階である程度決まってしまうので、 調律・調整段階で修正出来る部分は、演奏者が気持ちよく弾けるようにするという事が中心になるので、 タッチ・音の響き・音色の好みの全ての面で最大限に満足するためには、 前述のピアノ調律・調整だけでなく、ご購入段階からそのピアノが持つ基本特性を十分に把握する事も、 やはり大変重要な要素と言えると思います。 |
この Web
サイトに関する質問やコメントについては、shop@sugita.co.jp
まで電子メールをお送りください。 |